現代の組織運営において、効率化はほとんど疑いようのない価値とされている。無駄な在庫を削り、重複した業務を統合し、人員を必要最小限に抑える。こうした取り組みは平時には確かに成果を上げ、コストの削減という目に見える数字となって現れる。しかし、効率化が進んだ組織ほど、想定外の事態に対して脆くなるという逆説がある。 在庫を持たない生産方式は、部品の供給が一か所でも途絶えれば、ただちにライン全体が止まる。担当者を一人に絞った業務は、その人が不在になった瞬間に誰も手を付けられなくなる。平時に「無駄」と見なされていた余剰は、実は非常時に組織を支える緩衝材として働いていたのである。( A )、効率と頑健さとは、しばしば互いに引き換えの関係にある。 もっとも、ここから単純に「無駄を残せ」という結論を導くのは早計である。あらゆる余剰を温存すれば、組織は重くなり、変化への対応はかえって鈍る。問われているのは、どの無駄が単なる浪費であり、どの無駄が将来の危機に備える保険であるかを見分ける眼である。そのためには、自らの組織がどのような事態に弱いのかを、平時のうちに具体的に想定しておく必要がある。 生物の身体を考えてみるとよい。人間には腎臓が二つあり、片方を失っても生きていくことができる。一つで足りる器官を二つ備えているという点で、これは効率の観点からは明らかに余分である。だが、その余分こそが個体の生存の可能性を高めてきた。進化は効率の最大化ではなく、変動する環境の中で生き延びることを基準に形を選んできたのである。 組織もまた、予測できない環境の中で存続を目指す存在である以上、効率という単一の物差しで自らを測ることには限界がある。数字に表れにくい余裕をどこにどれだけ残すか。その判断こそが、これからの経営に求められる思慮の中身だといえよう。
本文の内容と合致するものはどれか。