地図は世界をありのままに写したものだと思われがちである。だが、球体である地球を平面に描く以上、どこかに歪みが生じることは避けられない。面積を正しく表せば形が崩れ、形を保てば面積が狂う。すべての性質を同時に正確に表す平面の地図は、原理的に存在しないのである。 私たちが見慣れた世界地図の多くは、高緯度に行くほど陸地が大きく描かれる図法を用いている。この図法は角度を正しく保つため、かつての航海には便利であった。しかしその結果、赤道付近の地域は相対的に小さく、高緯度の地域は実際より大きく見える。こうした地図を幼いころから見て育った人は、知らず知らずのうちに、ある地域を実際以上に大きく、別の地域を小さく感じるようになるかもしれない。 さらに、地図には何を載せ何を省くかという選択が常につきまとう。道路を詳しく描いた地図は車での移動には役立つが、そこに暮らす人々の生活の様子は伝えない。どの情報を重要とみなすかは、地図を作る者の目的と価値観によって決まる。地図は中立な鏡ではなく、ある視点から世界を切り取った一つの解釈なのだ。 だからといって、地図を信用するなと言いたいのではない。大切なのは、どの地図も特定の目的のために作られた道具であると理解したうえで使うことである。複数の地図を見比べれば、一つの地図だけでは見えなかった世界の姿が浮かび上がってくる。地図の歪みを知ることは、世界を見る自分の目の歪みを知ることでもあるのだ。
本文の主旨として最も適切なものはどれか。